『風に乗りてあゆむもの』 ガガガ文庫から出る逃避行ライトノベルは面白い説 その1
連載でやっていきます.全4回予定.
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逃避行ライトノベルは良い.
日常と非日常の境界線をなぞるように進展する危機.
ヒロインと主人公の軋轢.
軋轢から浮き彫りになる二人の想い.
二人の想いから生まれる,新たなトラブル.
そして新たなトラブルから生じる,更なる……危機.
手に汗握る展開に君もタジタジ!
- 作者: 原田宇陀児,ringo
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/12/18
- メディア: 文庫
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あらすじ:謎の少女とタクシードライバーの逃亡劇。私立探偵兼タクシードライバーのボギィは、旧知のアローニ警部からある東洋人少女の護送依頼を受ける。
「行き先は言えない」と警部に言われ、毒舌を吐きながらボギィはその寡黙な少女を乗せ、とりあえずタクシーを走らせていると、突然、何者かの襲撃。少女は命を狙われている?
なぜ……? 少女は何も語らない。何もわからぬまま「見えない敵」から逃亡を続けるうちに、ふたりの間にはいつしか不思議な絆が芽生え始め……。
あらすじから,唐突に逃亡劇が始まるイメージがあるが,この作品のキモは逃亡劇の発端となる事件との”平行線進行”.
実際には逃避行前に,早朝,とある「開演前の遊園地」で起こる少女失踪事件が作品のもう一つの軸として畫かれている.
稼働中のジェットコースターという”移動密室”で消えた少女.同じ機体に乗っていたもう一人の少女,ヒロイン:グラニットが何者かに狙われる理由とは?
そして,少女が消えた瞬間に現れた影,”イタカ”とよばれる存在の正体とは.
ぶっきらぼうで粗雑な元警察官,ベトナム帰りの私立探偵件タクシードライバーのボギィと,ミステリアスな幼女グラニットの凸凹コンビの逃避劇と平行して,ボギィの後輩刑事を通して語られる事件の真相究明劇.
謎が謎を呼び,浮かび上がる常識では考えられない超常の存在の影が素晴らしいスパイスとなって読者を襲う,表紙の幼女に騙されてはいけないハードボイルドなサスペンスだ.真相が明かされるまさにその時まで気が抜けない.
当初はお互いに不信感と警戒感を剥き出しにしてぶつかり合うボギィと少女グラニットの間に徐々に育まれていく信頼と親愛.
ふたりとも家族に恵まれなかった過去せいか,その間には擬似的な親子のような想いがつながり始める.
ボギィはついぞ縁の無かった娘という存在をグラニットに感じ,グラニットは実の父から得られることのなかった父親の愛と,決して叶うことのない初恋をボギィにいだいていく.
二人の間に育まれた尊い絆と,避けられない別れへと至る時間.
定番とはいえ,二人の別れのシーンは胸を鷲掴みにされそうな切なさが炸裂.
逃避行モノは良い.
逃避の先の,別れですら,ドラマになるのだから.
彼らが逃げたのは,お互いの気持か,心身の危機か.離別の先延ばしか,心傷の共有か.
読了後の吹き荒ぶさみしげな風の音色のような余韻に,少しの間だけ浸ってみてほしい.